高校2年生で習う数学の1つに,『相加相乗平均』の関係というものがあります.
初めて「平均」という単語が出て来たのは小学校の時でした.
あの頃は,単純に総和を求めて,個数で割ってあげたものを『平均』と呼んでいましたね
高校ではそれを,『相加平均』と呼んでいます.

さて,わざわざ『平均』を『相加平均』に言い方を変えたということは,なにかあるはずです.
ここでもう1つ現れる平均が『相乗平均』と呼ばれるもの

相乗平均の例として出した今回の問題をみても分かるように,縦と横の長さが異なるものを均一化しようとしているので,これも一種の平均なわけです.
整理すると,aとbの相加平均及び相乗平均はこのようになります.

先ほど,4と9の相加平均は6.5で,4と9の相乗平均は6となっていたように,『相加平均は常に相乗平均以上である』というのが『相加相乗平均の関係』です
この相加相乗平均の関係,円一個で可視化出来るのを知っていたでしょうか?
今回紹介するものは,「可視化することで理解しやすい!!」というよりも可視化することで数学のおもしろさを知ってもらうことを目的にしています.
円を考えてみる
では,図形を使って可視化してみるということで,今回は円を考えてみましょう
直径がa+bの円を考えてみましょう.この場合,もちろん半径は,\(\frac{a+b}{2}\)となります.

さて,この時,円の中心Oと点Aを結ぶ線分OAの長さを求めてみます.
線分OAの長さは,円の半径からaを引いたものなので,以下のように\(\frac{b-a}{2}\)となります.

そして,下図のように点Aから垂線を一本引いてみます.そして,その垂線と円の交点部分をBと置くことにしましょう.

さて,線分ABの長さを求めてみたいのですが,ちょっとまだきつそうですね.三角形を作ってあげれば,三平方の定理で求められそうです
ということで,点Bと円の中心Oを結んであげます.線分OBは,円の半径なので,長さは\(\frac{a+b}{2}\)となります.

これで,三角形を作ることが出来たので,三平方の定理を使って,線分ABの長さを求めてあげます.
図がぐちゃぐちゃになりそうなので,とりあえず三角形のみ取り出してみます.

めっちゃきれいになりました.線分ABの長さは,\(\sqrt{ab}\)という結果に.
これで終わっても良いんですが,わかりやすくするために円の中心Oから垂線を引いてみます.
垂線と円の交点を点Cとすると,線分OCも円の半径なので,長さは\(\frac{a+b}{2}\)です.

さて,ここまで来たらもう相加相乗平均が図中に隠れています.
わかりやすいように,余計な線の長さを隠してみます.

中学数学までの知識で,相加相乗平均関係を可視化することが出来ました.
ちなみに,相加相乗平均で等号成立(相加平均と相乗平均が一致する時)はa=bの時なのですが,これも可視化すると1発で理解できます.

代数と幾何の融合,すげーーってなりません? 代入したら等号成立明らかでしょっていうのは禁句
調和平均を考える
さて,すごいのはここからです.
調和平均というのをご存知でしょうか?
例えば,こんな問題があったとしましょう.このような場合,単純に相加平均を取ってはいけません.

例えば,片道75kmだとしましょう.すると,行きは1時間,帰りは3時間かかるので,往復150kmを4時間で移動したことになり,平均時速は150÷4で37.5となります.

これを一般化してみるとこのようになります.

このように,\(\frac{2ab}{a+b}\)というものを『aとbの調和平均』と呼びます
さて,先ほどの円に話を戻しましょう.
点Aから,線分OBに向けて垂線を引き,垂線と線分OBとの交点をHと置きます.

ちょっと図がごちゃごちゃしているのでわかりにくいですが,三角形だけとりあえず取り出して考えてみるとわかるように,三角形BAOと三角形BHAは相似の関係にあります
相似の関係を使って線分BHの長さを求めてみると,なんと線分BHの長さが調和平均である\(\frac{2ab}{a+b}\)になりました

2乗平均平方根の可視化
さて,調和平均が線分BHの長さと分かりましたが,なんともう一つこの円には平均が隠れています.
それが,2乗平均平方根と呼ばれるものです.

統計学なんかでよく使われるものですが,ばらつき具合も確認できるのがこの平均です.
例えば,AくんとBくんのスコアが2人とも50点だった時,そして,Aくんが0点でBくんが100点だった時,相加平均を使えばどちらも平均点は50点です
しかし,ばらつき具合は全く異なります.そこで2乗平均平方根の登場です.

このように,ばらつき具合も反映してるのが2乗平均平方根であると軽く知ってもらったところで,本題へ行きます.
とても簡単で,線分ACを引いて,三平方の定理を適用すれば線分ACの長さが出ます.
そして,これも綺麗に線分ACの長さが2乗平均平方根になっているんですね
※図がややこしくなるので,関係ないところは消してます

どうです?すごくないですか??
平均の可視化まとめ
さて,相加平均,相乗平均のみならず,調和平均と2乗平均平方根も1つの円に図示してみました.
最終結果がこちらです.※図がややこしくなるので,関係ないところは消してます

各線の長さがどの平均を表しているのかということさえ分かればあとは幾何関係から大小関係は分かるはず.
「こんなのわかったところでなに?」と言われればそこまでですが,代数と幾何を結びつけるのってすごく大事で,様々なことを視覚的に理解して初めて見えてくることも多いと思います.
なにより,学校で習ったことをさらに別の視点から見てみることで,様々な発見があると私は思います
これを見て「すごい!!」とか「おもしろい!!」って思っていただけたら数学がどんどん楽しくなるはず.勉強って本来そういうものなんですよ.
このように,別の視点から見てみる記事をいろいろ書いているので,もしよければ見てみてください.
最後になりましたが,この図形的解釈を教えていただいた坂どんさん( @banban7866),ありがとうございました.
「もしこれを取り上げてほしい!!」というのがありましたら,お気軽にご連絡ください!
この伝で行くなら、分散(相加平均との差の2乗平均)が、「(a-b)^2/2」になるので、底辺a-b、高さa-bの三角形の面積として表現できるんじゃないですか?
作図する時は「a-b」を「b-a」にすることになると思いますが、2乗するから同じ事ですよね。
相加平均ってそういうことだったのかっ!
と思ったと同時に市販の参考書にとてつもない怒りを感じました。
「なんであんな解り辛い書き方をするのだろう」と。迫先生のような説明が欲しいんですよね。いつもありがとうございます。
先ほどのコメントですが、aとbの分散は(a-b)^2/4でした。
それから、三角形の面積のところも勘違いしていました。
大変失礼しました。忘れてください。
id:kazoo_keeper
コメント誠にありがとうございます.
僕も考えましたが,「あれ?」ってなりました.
ただ,もっといろんなものを図形的に解釈することは可能だと思います!
考えるのってわくわくしますよね,勘違い,きにしないでください!!
またなにかあればお気軽に連絡ください!!
id:gotatan
ぐーたんさん.いつもいつもコメント誠にありがとうございます.
そうですよね~,一応,いろんな平均を計算はするんですが,「結局なにを求めてるかがわからない」というまま計算だけ出来るって人も少なくないはず.
実例を挙げながら説明するのがやっぱり一番早いんじゃないかなーって思っているので,その辺りは心がけています!!
分散は線分OA=(b-a)/2の2乗だから、線分OAの長さは標準偏差か。
これ使って何か面白いことできないかなぁ。
上の方が指摘されている通り,OA = σ です.
n 変数に拡張する方法をずっと考えていたのですが,算術・幾何・調和・RMS・σ を全て表すのは不可能だと思うに至りました.
この方法では一律に全ての平均が図形的に表せるという印象がありますが,本質を考えてみると全てが一律に求まっているわけではありません.算術・RMS・σ は一律に求まるのですが,幾何・調和は n 次元の場合だと少し勝手が違います.なぜなら,図形的な意味を考えるということはその長さが作図可能でなくてはなりません.2 変数の場合幾何平均には平方根が入りますが,平方根ならばこの記事のように円を用いて方べきの定理から作図が可能です.しかし,3 変数の場合は 3 乗根を作図しなくてはならなくなり,それは作図可能性の議論から不可能です.また,調和平均は実質的には (調和) = (幾何)^2/(算術) という関係式から求めており,幾何平均が作図不可能なので調和平均も同様に作図不可能です.
一方,四則演算と平方根からなる 算術・RMS・σ は n 次元の場合でも図形的意味を考えることができます.n 個のデータを持つベクトルを x, 全ての成分が 1 であるような n 次元ベクトルを 1_n とすると,算術平均 μ の sqrt(n) 倍が x の 1_n への射影の長さと等しくなります.(射影ベクトルを m = (μ,μ,…,μ) とする) すると,d = x – m が各データの偏差を持つベクトルになります.(m を含む 1 次元空間に対する直交補空間への x の射影) |d| = sqrt(n)σ です.すると,|m-d| = sqrt(n)•(RMS) となります.
また,実数 x に対する関数 f(x) を n 次元ベクトル v = (x_1,x_2,…,x_n) に対して適用することを f(v) = (f(x_1),f(x_2),…,f(x_n)) と定義して,データベクトル x に対して f を適用してから上記の操作で平均を求め f^{-1} で元に戻すことを認めると,f(x) = log(x) ならば幾何平均,f(x) = 1/x ならば調和平均を求めることも可能です.
さらに,この捉え方を使うと 2 つのデータベクトル x, y に対応する偏差ベクトル d_x, d_y のなす角の余弦が相関係数にあたり,相関係数の公式を覚えられずに苦労してる人の助けになる気がします.
残念ながら僕にはこの程度の考察しかできませんでした… すみません…
あとベクトル太字にできなくてすみません.
以下のサイトを参考にしました.
http://studio-rain.cocolog-nifty.com/blog/2013/10/post-91b1.html
http://www.snap-tck.com/room04/c01/stat/stat06/stat0602.html